「72の法則」で知られる“72”という数字。
年利で割るだけで、お金が2倍になるまでの年数をざっくり計算できるという、あの有名な法則です。
でもこの「72」、ただの便利な近似式の数字……で終わらせるには惜しい。
実は、数学的にも、教育的にも、そして暗算的にも、72という数字は非常に「使いやすい」構造を持っています。
今回は、なぜ72が「便利な数字」とされているのか?というテーマを、数学的な裏づけと実用面の両方からやさしく解説していきます。

割り切れる数が多すぎる件
72という数字の「便利さ」は、まず割り算のしやすさにあります。
これを裏づけるのが、素因数分解です。
72 = 2 × 2 × 2 × 3 × 3 = 2³ × 3²
つまり、72は2と3の累乗だけで構成されているため、非常に多くの整数と「仲が良い」のです。
たとえば、以下の数字で割り切れます:
2, 3, 4, 6, 8, 9, 12, 18, 24, 36…
これだけ割れる数が多いと、暗算でサクサク計算できるという利点があります。
たとえば、「年利6%なら、72 ÷ 6 = 12年で2倍」といった具合に、感覚的にもすぐに理解できます。
一方、同じような法則で使われることのある「69」という数字は、
69 = 3 × 23
と、23という素数を含んでいます。これにより、割り切れる数が圧倒的に少ないのです。
この時点で、計算のしやすさという点では72に大きく軍配が上がります。
なぜ教育現場や投資本で採用されるのか?
実は「72の法則」は、金融リテラシーを広めるための教育ツールとしても非常に優秀です。
その理由はシンプルです。
暗算しやすいから、初心者でも扱える
「72 ÷ 年利」という形は、算数レベルの割り算だけで完結します。
たとえ金融や数学が苦手な人でも、“とりあえずこのくらいで2倍になる”という感覚を掴めるのが強みです。
年数と利回りの感覚を同時に身につけられる
「年利が高いと、2倍までの時間が短い」
「3%と6%の差でも、倍になる時間は24年と12年で大違い」
こうした“時間とお金の関係”を直感的に伝えるには、72の法則がピッタリなんです。
だからこそ、投資の入門書やマネーセミナーでも、「まずは72の法則を覚えましょう」と紹介されるわけですね。
“正確性”より“使いやすさ”の勝利
もちろん、正確さでいえば「69の法則」の方が数学的には上です。
なぜなら、複利の公式から導き出される厳密な式では、
(1 + r)n = 2 → n = log(2) / log(1 + r) ≒ 0.6931 / r
つまり、「69.31 ÷ 年利」の方が理論的には正しい。
だから「69の法則」と呼ばれることもあります。
でも、その差はどのくらい?
実は、年利3〜10%程度の範囲で見れば、72の法則との誤差は±0.3〜1年程度しかありません。
投資や資産形成はそもそも「長期的なマラソン」。
そこにおいて±0.5年の誤差は、実用上まったく問題にならないのです。
そして、計算のしやすさ・感覚への届きやすさを考えれば、「使いやすい72を選ぼう」という判断になるのはごく自然なことです。
(詳しい計算は下記のページを参照)

まとめ|「便利=実用に耐える」という意味で72は最強
数学的な正確さでは69に軍配が上がる。
でも、実際に使うとなると、72の方が圧倒的に便利。
“便利な数字”とは、正確なだけでなく、誰でも使えて、すぐに役立つ数字のこと。
72はその代表格です。
「2倍になるには何年かかる?」
そんな問いに、直感的に答えられるあなたは、すでに金融感覚を育て始めている証拠。
ぜひ、72の法則を「割り算ツール」としてだけでなく、「感覚のものさし」として活用してみてください。